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親父はとろろが好きである。
とろろ、である。世の中には寿司が好きだとか、焼肉が好きだとか、ラーメンが好きだとか、いかにも元気が出そうな食べ物を好物に挙げる人が多い。
しかし、親父は「何が好きですか」と聞かれると、かなりの確率で「とろろです」と答える。
すると相手は、たいてい一瞬黙る。
「ああ、そうですか」
と言うのだが、その「ああ」の中には、「ずいぶん地味ですね」とか、「胃の調子でも悪いんですか」とか、いろいろな意味が含まれているような気がする。しかし、とろろは決して地味な食べ物ではない。
まず、あの粘りである。
箸で持ち上げると、どこまでも伸びる。
まるで「まだ終わりませんよ」と言わんばかりに糸を引く。
そのしつこさは、選挙になると急に親しげになる政治家にも少し似ている。
しかも、とろろはご飯にかけるだけで一膳があっという間になくなる。食欲のない夏の日でも、とろろご飯なら不思議と食べられる。
いや、食べられるどころか、気がつくと二杯目に突入している。
これは危険である。
「健康に良いから」と安心していると、ご飯を三杯も四杯も食べることになり、結果として健康に良いのか悪いのか、だんだん分からなくなってくる。
それでも僕はとろろが好きである。
熱いご飯の上にとろろをかけ、刻み海苔をトッピングして、ずるずるとかき込む。
その瞬間だけは、世の中の面倒なことを全部忘れられるような気がする。
考えてみれば、人間というものは案外単純なもので、とろろ一杯で幸せになれるのである。
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コメント
コメント一覧 (2)
それも自然薯の!
今はないので大和芋などでしますが。
亡き父が昔山にとりにいってたんですよ。
ほんとに粘りがあり美味しいんです。
美味しいですよねぇ!
市川海老之助
が
しました
静岡県磐田市に自然薯の美味しい店があって、久しぶりに行こうかな。
市川海老之助
が
しました