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子どもの頃、茶の間の菓子鉢に何気なく入っていたあの四角いビスケットを、私はずいぶん長いこと「全国民が知っているもの」だと思っていた。
ところが大人になって県外の人に「しるこサンドって知ってる?」と聞くと、意外にも首をかしげられることが多い。「しるこをサンドしてあるの?」と真顔で聞かれたこともある。
いや、たしかに名前だけ聞けば、汁気たっぷりのお汁粉をパンで挟んだような、なかなか大胆な食べ物を想像してしまうのも無理はない。

しかし実際のしるこサンドは、そんな無茶はしていない。
ビスケットの生地にあんこの風味を練り込み、ほんのり甘く、どこか懐かしい味がする。
派手さはない。チョコレートがとろけるわけでも、クリームが溢れ出るわけでもない。
だが、ひとたび袋を開けると「一枚だけ」のつもりが、気がつけば半袋ほど消えている。
これはなかなか油断ならない菓子なのである。
親父はしるこサンドを食べるたびに、昭和の茶の間を思い出す。
テレビではプロ野球中継が流れ、父は新聞を広げ、母はみかんの皮をむいている。
そんな風景の隅に、いつもさりげなく置かれていたのが、しるこサンドだったような気がする。
最近のお菓子売り場には、海外由来の洒落た名前のお菓子が並ぶ。しかし、「しるこサンド」という、なんとも実直で飾り気のない名前には、妙な安心感がある。
流行に振り回されず、半世紀以上も同じような顔をして店頭に並び続ける姿は、まるで近所の頑固なおじさんのようだ。
お菓子にも人格があるとしたら、しるこサンドは間違いなく「口数は少ないが、長く付き合うほど味わい深い人」である。
そんなところが、好きなのだ。
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