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 子どものころ、私は母にずいぶん生意気な口をきいたことがある。

Copilot_20260709_181934 すると、針仕事の手を止めた母が、縫い針を一本つまみ上げて、光る針先をこちらに向けながら言った。

 「そんなこと言う子は、口を縫っちゃうよ。」

 たったそれだけの一言だった。

 今なら冗談だって分かるけど、当時の私は本気で「人の口って縫われるものなのか」と思って、あわてて両手で口を押さえた。
 母の針は、私の反抗心よりずっと鋭かった。

 親って不思議だ。
 大声で怒るより、一本の縫い針を見せるほうがよっぽど効くことがある。
  そんなわけで私は、口を縫われない程度に反抗するコツを、少しずつ覚えていった。

ところが先日、本当に人の口を縫ってしまうという痛ましい事件の報道を目にした。

 あのころ、母が言った「口を縫ってやる」は、子どもをたしなめるための大げさな言い方で、そこにはちゃんと愛情という逃げ道があった。
 だから私は怖がりながらも、母を憎むことはなかった。

 言葉って、ときに刃物にもなるし、お守りにもなる。

 母の「口を縫ってやる」は、縫われたのが口じゃなくて、生意気だった私の心のほうだったのかもしれない。

 今思えば、あのキラリと光った針先は、人を傷つけるためじゃなくて、親心っていうしつけを一針一針縫い込んでいたんだろう。




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