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昼飯はさわやかの『げんこつハンバーグ』を食べたかったのである。
しかし13:00に『さわやか浜松有玉店』に入店して順番を取ると126番であった。
女性店員はこともなげに「2時間お待ちいただくことになりますが、よろしいですか。」と言う。
どうしても『げんこつハンバーグ』が食べたいので2時間待った。
しかし自動車の中で待つわけにはいかず。
2・3分先にある『星乃珈琲浜松有玉店』で何かを飲んで時間を潰すことにした。
『織姫と彦星がこんな処に…』
七夕は過ぎても、星の名前は珈琲の中で生きている。
店の名が「星乃珈琲」だから、ブレンドの名も「織姫」と「彦星」。
そんな遊び心のある名付けを知ると、ただの一杯のコーヒーが少しだけ物語をまとって見えてくる。
店では「織姫ブレンド」「彦星ブレンド」が定番のハンドドリップ珈琲として親しまれているそうだ。妻は迷わず織姫ブレンドを選んだ。
軽やかでやさしい香りが似合う一杯である。
親父は彦星ブレンド。
少し苦味の効いた深い味わいが、年齢とともに増えた人生の渋みと、どこか相性がいい。
親父は苦味の効いた良い男である。
(*゚▽゚*)
向かい合って座ると、まるで天の川を挟んだ織姫と彦星である。
もっとも、年に一度しか会えない二人と違い、こちらは毎日顔を合わせている。
だからといってロマンチックな会話になるわけでもない。「そのコーヒー、うまい?」
「そっちもね。」
たったそれだけの会話なのに、不思議と心は温まる。
若い頃は、特別なプレゼントや遠出が幸せだった。
だが年を重ねると、同じテーブルで違う珈琲を飲み、「美味しいね」と笑い合える時間のほうが、ずっと贅沢に思えてくる。
織姫ブレンドと彦星ブレンド。
カップの中で星は出会い、夫婦もまた静かに出会い直す。
人生とは案外、そんな一杯の珈琲から、もう一度仲良くなれるものなのかもしれない。
『最後の一滴まで、ごちそうさま』

午後3時半。ようやく順番が回ってきた。
人気店というものは、待つ時間まで料理の隠し味にしてしまうらしい。
お腹はすっかり空いているのに、不思議と腹は立たない。
「もうすぐだ」という期待が、空腹をごちそうへと変えてくれる。
親父は期間限定の「げんこつハンバーグ倶楽部」を注文した。
かんぱいジュースに季節のスープ、げんこつハンバーグ、それにライ麦パンまで付いて1760円(税込)。
これはなかなか立派な部活動である。
まずはパインジュースが運ばれてきた。
「乾杯しますね。」
店員さんの笑顔とともに、毎度おなじみの乾杯である。
ほんの数秒のやり取りなのに、それだけで店の空気が少し温かくなる。
こういう演出は、料理の味まで少し優しくしてくれる気がする。
妻はハンバーグとエビフライ。
運ばれてきたげんこつハンバーグは、中がほんのり赤い。鉄板の上でジュッと音を立てながら焼き上げられ、オニオンソースがかかると、香りだけでご飯が一杯食べられそうだ。
一口頬張る。
肉の旨味がじわっと広がる。
「うまい」という言葉は、こういう時のためにあるのだろう。
しかし、親父の本当のお楽しみは、そのあとである。
ハンバーグを食べ終わったら、ライ麦パンを小さくちぎり、鉄板に残ったオニオンソースと肉汁を丁寧にぬぐい取る。
行儀が悪いと言われるかもしれないが、親父には「最後までいただきます」という、小さな感謝の儀式なのである。
パンはソースを吸い込み、肉汁をまとって、主役にも負けない一口になる。
妻のエビフライも一本いただいた。
これまた実にうまい。
結局のところ、さわやかは何を食べてもおいしい。
店の名前は「さわやか」だが、食べ終えた私は爽やかというより、満腹で幸福な顔をしていたと思う。
幸せとは案外、鉄板に残った最後の一滴まで、きれいに味わえることなのかもしれない。
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