「痛い」って言っても、いろいろある。
財布を落とした時の痛い。かた
妻に冷たくされた時の痛い。
そして今回の親父の左脇腹は、「いや、これ普通じゃないだろ」というレベルの痛さだった。
昨日、市民病院の救急外来に駆け込んだ。
担当医がCT画像を見ながら、
「尿管結石の疑いがありますね」
と言う。
親父は心の中で思った。
また石かよ。
親父は金持ちではない。
石持ちである。
しかもその石は、土地にも家にも埋まっていない。
体の中に埋蔵されているのだ。
今朝、泌尿器科を受診した。
担当のK医師は落ち着いた口調で、
「尿管結石で間違いありません」
と断言した。
ここまでは、まあ予想どおり。
ところが、その次の一言で親父はかなり驚いた。
「昨日のCTを見ますと……7、8年前に尿管結石から腎盂腎炎になった右の腎臓ですが、ほとんど機能していません。」
えっ?
「今は左の腎臓だけに頼っている状態です。」
親父は一瞬、聞き間違えたかと思った。
腎臓は二つあるから安心、なんて勝手に思い込んでいた。
でも実際は、右腎臓は定年退職どころか、ずっと前から隠居生活に入っていたらしい。
現役で働いているのは左腎臓だけ。
会社で言えば、一人で全部こなしているベテラン社員みたいなものだ。
「右はお休みです。」
「左、よろしく。」
そんな社内メールが体の中で回っていたなんて、親父は知らなかった。
親父は脊髄小脳変性症と付き合いながら暮らしている。
そこに今度は腎臓まで加わった。
人間ドックで「異常ありません」と言われるとホッとするけど、本当の体の事情って、本人が知らないところで静かに進んでいることがある。
それでも左腎臓は、文句も言わず二人分働いてくれていた。
考えてみれば、かなり健気じゃないか。
家に帰ってから、親父は左の脇腹をそっとさすった。
「これからも頼むぞ。」
妻にはそんな優しい言葉、40年間ほとんど掛けたことがないのに、腎臓には自然と出てきた。
すると心の中で左腎臓がこう言った気がした。
「石だけは、もうやめてください。」
その一言には、親父も深くうなずくしかなかった。
アルコール度低%であっても禁酒しよう。
塩分摂取も気を付けなくては…。
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