夏になると、庭には蝉の抜け殻がゴロゴロ転がっている。
あれを見るたびに、「今年も夏が来たなあ」と思う。
もっとも、抜け殻ばかり見ていると、蝉というのは脱ぎっぱなしの名人である。
人間なら「脱いだら片付けなさい」と母親に叱られるところだ。
先日の夕方、庭に出ると、木の幹に何やら白っぽいものがくっついていた。
近づいてみる。
おおっ、蝉が羽化している。
土の中で何年も暮らし、ようやく地上へ出てきたと思ったら、背中がパカッと割れて、中から薄緑色の体がゆっくり現れる。
その羽は、まるで和紙を広げたように柔らかく、少しずつ少しずつ大きくなっていく。
蝉の羽化は夕方から夜にかけて行われることが多いらしい。
見ているこちらは息をするのも忘れる。
「頑張れ、あと少しだ。」
思わず応援したくなる。
ところが蝉は、そんな親父の励ましなど聞いていない。
何年も土の中で修業してきたのだから、「今さら口を出すな」とでも思っているのだろう。
羽が伸び切ると、蝉はじっと動かない。
人間なら「動かないけど大丈夫か」と心配になるが、蝉は焦らない。
乾くまで待つのである。
この「待つ」というのが実に偉い。
親父など電子レンジで温める三分ですら待ちきれない。
「まだか、まだか」と扉を開けたくなる。
蝉は違う。
何年も待ち、何時間も待ち、ようやく空へ飛び立つ。
庭の片隅で見た小さな羽化は、夏の風物詩というより、一匹の命の卒業式のようであった。
翌朝、その場所には抜け殻だけが残っていた。
「ああ、無事に飛べたんだな。」
そう思うと、庭が少しだけ誇らしく見えた。

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もっとも、抜け殻ばかり見ていると、蝉というのは脱ぎっぱなしの名人である。
人間なら「脱いだら片付けなさい」と母親に叱られるところだ。
先日の夕方、庭に出ると、木の幹に何やら白っぽいものがくっついていた。
近づいてみる。
おおっ、蝉が羽化している。
土の中で何年も暮らし、ようやく地上へ出てきたと思ったら、背中がパカッと割れて、中から薄緑色の体がゆっくり現れる。
その羽は、まるで和紙を広げたように柔らかく、少しずつ少しずつ大きくなっていく。蝉の羽化は夕方から夜にかけて行われることが多いらしい。
見ているこちらは息をするのも忘れる。
「頑張れ、あと少しだ。」
思わず応援したくなる。
ところが蝉は、そんな親父の励ましなど聞いていない。
何年も土の中で修業してきたのだから、「今さら口を出すな」とでも思っているのだろう。
羽が伸び切ると、蝉はじっと動かない。
人間なら「動かないけど大丈夫か」と心配になるが、蝉は焦らない。
乾くまで待つのである。
この「待つ」というのが実に偉い。
親父など電子レンジで温める三分ですら待ちきれない。
「まだか、まだか」と扉を開けたくなる。
蝉は違う。
何年も待ち、何時間も待ち、ようやく空へ飛び立つ。
庭の片隅で見た小さな羽化は、夏の風物詩というより、一匹の命の卒業式のようであった。
翌朝、その場所には抜け殻だけが残っていた。
「ああ、無事に飛べたんだな。」
そう思うと、庭が少しだけ誇らしく見えた。
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