朝九時半。安城産業文化公園デンパークの開園時間である。
「朝なら少しは涼しいだろう」
そう考える人間は多い。
しかし、この日の温度計は実に正直であった。
開園したばかりだというのに30℃を軽々と超えている。
暑い。
「朝から30℃」という言葉には、なにか反則技を食らったような気分がある。
ゲートが開く。
すると子ども連れの家族が、一斉にある方向へ歩き始めた。いや、歩くというより進軍である。
目指す先は「じゃぶじゃぶ池」。
小さな子どもは、水を見ると理性を失う。
池を見た瞬間、「服が濡れる」「着替えが要る」などという大人の事情は頭から消え去る。
そのことを親はよく知っている。
だから親が本当に急いでいるのは池ではない。
池の脇の日陰テントである。
「あそこを確保せよ!」
そんな隊長の号令が聞こえてきそうな勢いで、お父さんは折りたたみ椅子を抱え、お母さんはレジャーシートを持ち、祖父母は荷物係となって続く。
現代の場所取り合戦は、お花見から水遊びへと舞台を移したのである。
一方、その喧騒からほんの数十メートル離れた水生植物の池では、まるで別世界だった。
蓮の花が、すうっと茎を伸ばし、朝日に照らされて静かに咲いている。誰に褒められるでもなく、誰と競争するでもなく、ただ優雅である。
こちらは場所取りも不要。
順番待ちもない。
蓮は「急がなくてもいいですよ」とでも言いたげな顔で、朝の熱気をものともせず風に揺れている。
じゃぶじゃぶ池は歓声であふれ、蓮池は静寂に満ちる。
同じデンパークの中なのに、たった数十メートルで季節の楽しみ方がこんなにも違う。
親父は汗をぬぐいながら思った。
人間は暑くなると水へ飛び込み、蓮は暑くなるといちばん美しく咲く。
さて、この勝負。
涼しさでは子どもたちの勝ちだが、風情ではやはり蓮に軍配を上げたくなるのである。
親父はワークマンの空調ジャケットを着て歩いた。
ジャケットの胸ポケットと脇ポケットに冷凍庫で凍らせた冷却剤を入れた。
ファンが外気を取り込みジャケットを膨らませる。
すると冷却剤で冷やされた空気がジャケット内を巡るのである。
猛暑の中快適歩ける。
時々熱中症計をながめる。
注意サインがでているので、30分に1回水分補給をした。

花壇の花も水を欲しがり、ファンタジーガーデンでは男性係員、秘密の花園では女性係員が長いホースを操って花壇の花に水を与えていた。
朝に1回、夕方に1回水やりをしているそうだ。
親父は朝顔に毎日同じように水やりをしている。



メルヘン号の座席には風鈴が吊るして有る。マーケット前の庇にはミストシャワーが噴射装置が設置されて、来客者に涼を取らせている。
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