蝉がうるさい。

 朝、窓を開けた瞬間に「シャワシャワシャワーッ!」と浴びせかけられる。
 まだコーヒーも飲んでいないのに、耳だけはすっかり真夏である。

 「ああ、今日も暑いな」と温度計を見る前にわかる。
 日本人は昔から蝉の声を「夏の風物詩」と言うが、近頃は風物詩というより拡声器だ。
 
 一本の木に何十匹も止まっていると、木全体が巨大なスピーカーになったようである。
 蝉の鳴き声は、オスがメスを呼ぶための求愛なのだという。

Screenshot_20260730-114631 しかし不思議だ。
 人間なら「好きです」と一人に向かって言えば済むのに、蝉は森じゅうに響き渡る大音量で叫ぶ。
 「私はここだあぁぁ!」

 まるで選挙カーである。
 それも朝から夕方まで休みなし。
 こちらは「少し静かにしてくれ」と言いたいが、蝉からすれば命はほんのわずか。
 7年幼虫で土の中にいて、成虫になって外にでれは、1週間の命である。 その短い夏を、全力で生きているのだろう。

 だから腹も立つのだが、妙に憎めない。

 夕方になってヒグラシが「カナカナ」と鳴き始めると、さっきまで「うるさい」と思っていた親父の心が急にしんみりする。

 蝉とは不思議な生き物である。
 昼は騒音、夕方は音楽。

 同じ虫なのに、時間によって評価が180度変わる。

 結局、人間というものは勝手だ。「うるさい」と文句を言いながら、秋になって蝉の声が消えると、 「今年の夏も終わったなあ」と、少しだけ寂しくなるのである。










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