朝5時時。
世の中には二種類の人間がいる。
まだ夢の中で寝返りを打っている人と、畑で雑草と格闘している人である。
親父は後者である。
朝の畑は気持ちがいい。
涼しい風が吹き、セミも「今日はまだ本気を出しません」という顔をしている。
草も朝露をまとって、おとなしく見える。
ところが、これが大きな間違いなのである。
鎌を入れても入れても、草は「まだおります」「こちらにもおります」と次から次へ現れる。
まるで雑草界の無限増殖システムだ。
朝5時から8時まで、3時間も草取りをした。
「おお、今日はずいぶん片付いたぞ」
と思って振り返る。
ところが畑全体を見ると、きれいになった場所は、ほんの一角だけである。
雑草という連中は、「一人倒れても十人立つ」という、どこかの時代劇の悪役みたいな生命力を持っている。
だから親父は決めた。
休みの日は、早朝だけ草取りをする。
昼間に頑張ろうなどとは思わない。
最近の夏は、人間より太陽のほうがやる気満々なのである。
頼りになる相棒もいる。
空調ファン付きジャケットの胸には熱中症計がぶら下がっている。
この小さな機械は、実に遠慮がない。
「厳重注意!」
とアラームを鳴らす。
すると親父は、雑草との勝負を潔く打ち切る。
「今日はお前たちの勝ちだ。また明日の朝、勝負しよう」
雑草に向かって心の中でそう言い、鍬を置いて家へ帰る。
昔なら「根性が足りん」と言われたかもしれない。
しかし今は違う。
雑草は来年も生えてくる。
だが、人間は熱中症で倒れたら、来年の草取りどころではない。
畑仕事でいちばん大切なのは、雑草に勝つことではない。
「生きて帰ること」。
この歳になると、それがいちばん立派な収穫なのである。

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まだ夢の中で寝返りを打っている人と、畑で雑草と格闘している人である。
親父は後者である。
朝の畑は気持ちがいい。
涼しい風が吹き、セミも「今日はまだ本気を出しません」という顔をしている。
草も朝露をまとって、おとなしく見える。
ところが、これが大きな間違いなのである。
鎌を入れても入れても、草は「まだおります」「こちらにもおります」と次から次へ現れる。
まるで雑草界の無限増殖システムだ。
朝5時から8時まで、3時間も草取りをした。
「おお、今日はずいぶん片付いたぞ」
と思って振り返る。
ところが畑全体を見ると、きれいになった場所は、ほんの一角だけである。
雑草という連中は、「一人倒れても十人立つ」という、どこかの時代劇の悪役みたいな生命力を持っている。
だから親父は決めた。
休みの日は、早朝だけ草取りをする。
昼間に頑張ろうなどとは思わない。
最近の夏は、人間より太陽のほうがやる気満々なのである。
頼りになる相棒もいる。空調ファン付きジャケットの胸には熱中症計がぶら下がっている。
この小さな機械は、実に遠慮がない。
「厳重注意!」
とアラームを鳴らす。
すると親父は、雑草との勝負を潔く打ち切る。
「今日はお前たちの勝ちだ。また明日の朝、勝負しよう」
雑草に向かって心の中でそう言い、鍬を置いて家へ帰る。
昔なら「根性が足りん」と言われたかもしれない。
しかし今は違う。
雑草は来年も生えてくる。
だが、人間は熱中症で倒れたら、来年の草取りどころではない。
畑仕事でいちばん大切なのは、雑草に勝つことではない。
「生きて帰ること」。
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