梨という果物は、じつに人がいい。

 木にぶら下がって、毎日せっせと甘くなり、「そろそろ食べ頃ですよ」と黙って教えてくれる。

Copilot_20260803_180248 その親切につけ込む人間がいる。
 今年もまた、丹精込めて育てた幸水がごっそり盗まれたというニュースを見た。
 農家にとっては一年間の汗が、一晩で消えてしまうようなものだ。

 しかも事件の直後、「メルカリに幸水が大量に出品されている」とネットが騒然となった。
 もっとも、その時点でメルカリは盗品と確認された出品は見つかっていないとしており、調査を続けると発表している。

 だから「出ていた梨=盗品」と決めつけることはできない。
 しかし、世間の人が「もしや」と思う気持ちも分かる。

 昔は「泥棒は風呂敷を背負って逃げる」のが定番だった。

 今はスマホ1台で全国へ「送料無料です」と売れる時代である。
 便利とは、善人にも悪人にも平等なのである。

 では、メルカリは盗品販売を防ぐ方法はないのか。
 もちろん、本人確認やAIによる不正検知、通報対応、警察との連携など、できる対策は進めている。

 それでも梨は困る。

 工業製品なら製造番号がある。
 自転車なら防犯登録がある。

 ところが梨には「私は福岡県○○農園生まれです」という名札が付いていない。

 一つひとつの梨にマイナンバーを刻むわけにもいかない。
 もし刻んだら、「この梨、甘いけど番号も甘いね」などという会話になってしまう。

 結局、最後は売る人の良心と、買う人の良識に頼る部分が残る。
 あまりに安い梨、大量に並ぶ出どころの分からない梨には、「ちょっと待てよ」と立ち止まる想像力が必要なのだろう。

 梨は木から落ちても梨である。
 人間は良心を落としたら、もう人間ではなくなる。

 泥棒が盗んだのは梨だけではない。
 農家の一年と、収穫の日を楽しみにしていた笑顔まで盗んでしまったのである。





 ところで8月1日から別宅『爺の風は強く吹いている』を開設しました。
 併せてお楽しみください。




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