朝というのは、不思議な時間である。

 午前4時43分。
 世間では「こんな時間に起きる人がいるのか」と思われそうだが、この時間になると、街はもう静かに動き始めている。

Copilot_20260805_082624 コンビニへ商品を運ぶ大型トラックがゴォーッと走っていく。
 少し遅れて、新聞配達のカブが「プルルル」と独特の音を立てながら角を曲がる。

 人間はまだ寝ぼけていても、社会というものは律義である。
 私はその流れに混じって畑へ向かう。

 5時前の畑は別世界だ。昼間なら容赦なく照りつける太陽も、まだ「今日はどれくらい人間を困らせようか」と相談中らしい。
 空気には少しだけ夜の名残がある。

 4時55分、草取り開始。

 相手は草である。
 「草取り」というと、いかにも穏やかな作業に聞こえるが、実際は根気比べである。
 一株抜けば、その横に「私もおります」と次の草が顔を出している。
 畑というものは、どうやら雑草だけには大歓迎の看板を掲げているらしい。

 親父は脊髄小脳変性症で足元がおぼつかない。
 それでも鍬ではなく、自分の足で畑に立ち、自分の手で草を抜く。
 これは野菜のためでもあり、自分自身のリハビリでもある。

 もちろん無茶はしない。
 20分ごとにペットボトルの水を口へ運ぶ。
 40分ごとには小休憩。


 昔なら「そんなに休んで仕事になるか」と言われたかもしれない。
 しかし今は違う。
 熱中症は根性論など笑い飛ばしてしまう。
 暑さの前では、人間は案外弱い生き物なのである。
 だから私は時計を見ながら、律義に休む。

 休むことも作業のうち。
 これが最近ようやく身についた。
 気がつけば7時50分。
 三時間近く草と向き合ったことになる。

 畑を見渡すと、草が減った場所と、まだ手つかずの場所が仲良く並んでいる。
「よし、終わった」
とは、とても言えない。

 「今日はここまで」
 そのくらいがちょうどいい。

 畑仕事というのは、終わらせるものではなく、明日へつなぐものらしい。
 帰り道には通勤の車が増え、街はすっかり目を覚ましていた。

 私は少し汗まみれで家へ戻る。
 世間はこれから仕事。
 私はもう一仕事終えている。
 この小さな優越感が、早起きへの何よりのご褒美なのである。



 8月1日別宅『爺の風は強く吹いている』を開設しました。
 併せてお楽しみください。




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