copilot_image_1788580022172 一週間ぶりにデンパークへ行った。

 ここしばらく雨ばかりだった。
 空を見上げると「もう十分降ったでしょう」と言いたくなるくらい降った。
 その雨が今日はお休みである。
 曇り空、最低気温21℃、最高気温27℃度。

 数字だけ見ると「本当に九月か」と疑うほど快適だ。
 親父は九時半から正午まで歩いた。
 脊髄小脳変性症の歩行リハビリである。
 三時間歩くと聞くと、スポーツマンみたいだが、実際は「よいしょ、よいしょ」と秋を追いかける散歩である。

 デンパークに入って最初に見つけたのは赤トンボだった。
PXL_20260905_024341910~2 あれは不思議な虫である。
 姿を見た瞬間、「秋だ」と脳が勝手に判定する。
 カレンダーより正確な季節予報士だ。

 彼岸花も咲いていた。
 毎年きっちり彼岸の頃に顔を出す。
 誰に教わるでもない。
 植物は腕時計もスマホも持っていないのに時間に正確だ。
 人間の方がよほど怪しい。

 ヨーロッパ風お花畑へ行くと、夏の花はすっかり引退していた。
 代わりに鶏頭が並んでいる。
 鶏頭という名前はなかなか率直である。
 「鶏の頭です」と名乗ってしまう潔さ。
 赤や黄色のモコモコが並ぶ姿は、どこか町内会の運動会で整列しているようにも見える。

PXL_20260905_021141376~2 一方で、子どもたちに人気のじゃぶじゃぶ池は閉鎖中だった。リホーム工事らしい。
 夏なら「水しぶきキャーキャー」の場所が、今日は静かである。
 池にもリフォームがあるのか、と妙に感心した。
 人間は家を直し、池も直す。
 秋はどうやら工事の季節でもあるらしい。

 雨が続いたあと、景色はちゃんと秋へ引っ越していた。
 親父の歩き方は相変わらず少しふらつく。
 それでも赤トンボも彼岸花も鶏頭も、「急がなくていいよ」と言ってくれているような気がした。

 秋は、走って来ない。
 歩いている人のところへ、そっとやって来るのである。
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「ツクツク法師は夏の居残り組」 


 歩いている途中で、もう一つ秋と夏が同居していることに気づいた。
 ツクツク法師が鳴いていたのである。

 赤トンボが飛び、彼岸花が咲いている景色の中で、「ツクツクボーシ、ツクツクボーシ」と元気に鳴いている。
 あれを聞くと、夏はまだ帰り支度の最中なのだと思う。

 セミというのは面白い。
 ミンミンゼミやアブラゼミは「暑いぞ、暑いぞ」と真夏を担当する。ところがツクツク法師だけは、夏休みの宿題を最後の日までやっている子どものように、九月になっても鳴いている。

 親父は耳で季節を数えた。
 目では赤い彼岸花を見て秋を感じ、空では赤トンボを見て秋を感じる。
 しかし耳に入ってくるのはツクツク法師の声である。
 「まだ夏ですよ」と言い張る担当者が一匹残っているのだ。

 季節というものは、きっちりバトンタッチしないらしい。
 夏と秋が少し重なっている。
 その重なった数日間だけ聞けるのが、ツクツク法師なのだ。

 デンパークを歩いていると、秋は色でやって来て、夏は声で名残を惜しんでいた。
 親父は杖をつきながら、その季節の引き継ぎ式の中を、ゆっくり歩いていたのである。






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