雑草というやつは実に現金な植物である。

 人間が「ああ、雨でイヤだなあ」とぼやいている横で、「ごちそうさまでした」とばかりにグングン背を伸ばしている。
 雨は雑草にとってリポビタンDかユンケルか、いや、それ以上の栄養ドリンクらしい。

 昨日の朝、畑へ行ったら、草どもが一晩で高校生くらいまで成長していた。
 「おいおい、昨日まで小学生だったじゃないか。」
と驚くほどである。

 私は鎌を持つより先に、一番背の高い草の首根っこをつかんで「えいっ」と引っこ抜く。
 これが気持ちいい。
 スポン、と抜ける草もあれば、「絶対離さん」と粘る草もいる。
 雑草にも性格がある。

 ところが、昨日は歯医者の予約がある。
 Ⅰ歯科医院で歯の治療である。

 時計を見るたびに焦る。
 「ああ、この草も抜きたい。」
 「その隣も気になる。」
 「お前もだ。」

 草取りというのは終わりがない。
 ゲームでいうラスボスを倒したと思ったら、その後ろからラスボスが百匹現れるようなものである。

ChatGPT Image 2026年9月12日 18_33_02 結局、予定の七割で撤退。
 畑を振り返ると、三割の雑草がこちらを見送っている。
 「また来いよ。」
と笑われた気がした。

 今朝。
 朝から雨。

 昨日の残党どもを一掃する予定だったのに、小雨がしとしと降っている。
 小雨というのが困る。

 本降りなら諦めがつく。
 小雨は「できるんじゃない?」と誘惑してくる。

 しかし脊髄小脳変性症の親父は、濡れた土でふらつくと危ない。
 ここは潔く撤退である。
 撤退先はコメダ珈琲店。

 人間、畑からコメダへの転進は実に早い。 
 モーニングの厚切りトーストにゆで卵。

 さっきまで雑草と格闘する気満々だった男が、今はいちごジャムトーストを食べることに全神経を集中している。
 人生というのは切り替えが大事だ。

 午後一時半からは東京都難病相談・支援センターのオンライン講演会。
 二時間、画面越しに難病医療の話を聞く。

 病気と付き合って生きる知恵を学ぶ時間である。
 「病を知れば癒ゆるに近し。」
 最近、この言葉が妙に胸に残る。

 講演が終わった午後四時。
 外を見ると雨は上がっていた。

 「討伐隊、出動!」
 残してきた三割の雑草を相手に第二ラウンド開始である。
 夕方の畑は朝より涼しい。

 一本一本引き抜いていくと、残党は次々に降伏した。
 「昨日は勝ったと思ったろ。」
 親父の勝利宣言である。
 もっとも、全部抜いたと思っても、一週間後には第二師団、第三師団が現れることを私は知っている。
 雑草戦争に終戦はない。

 午後六時。
 戦場から帰還した兵士には褒美が待っていた。
 妻の64歳の誕生日祝いで「焼肉味韓」に行った。

 この店は危険だ。
 一度食べると、ほかの焼肉屋へ行けなくなる。

 肉が網の上でジュワッと鳴く音だけで、ご飯が一杯食べられる。
 しかし私の本命は肉ではない。
 石焼ビビンバである。

 あの熱々の石鍋に、ご飯とナムルと肉と卵が混ざり合い、おこげがパチパチ音を立てる。
 スプーンを入れる瞬間がたまらない。
 畑で二日がかりの草取りをした身体に、この一杯が染み込む。
 雑草を引っこ抜いた疲れが、石焼ビビンバに吸い取られていくようだ。

 妻の誕生日祝いと言いながら、一番癒やされたのは畑帰りの親父だったかもしれない。

 雨は雑草を育てた。
 焼肉と石焼ビビンバは親父を育てた。

 さて、来週あたり、また雑草は栄養ドリンクを飲んで現れるだろう。
 親父も負けじと、コメダのモーニングと石焼ビビンバで英気を養うのである。











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